自然の梯子の観念の系譜

C・A・パトリディーズほか『存在の連鎖』村岡晋一ほか訳、平凡社、一九八七年




ヒストリー・オヴ・アイディアズの一七冊目。パトリディーズの「ヒエラルキーと秩序」がラヴジョイの遺産をうけついで、充実している。ジョージ・ポアズの「マクロコスモスとミクロコスモス」はクラシックな論文、リア・フォルミガリの「存在の連鎖」も宇宙論を中心として、読ませる。


パトリディーズの「ヒエラルキーと秩序」では、自然の梯子という観念がプラトンとアリストテレスから生まれたことを指摘し、アリストテレスの『動物誌』(八、一)で、植物から動物にいたる連続的な階梯(メタバシス)があることを指摘していることに注目する。マクロビウスの『スキピオの夢』(一、一四、一五)において、「思考な神から底の底にたまった宇宙のおりにいたるまでその継ぎ目ごとを結びつけ、決して中断されることのない一本の紐がたれているのに気付くに違いない。これこそホメロスの言う黄金の鎖なのであり、ホメロスがわれわれに告げるところによれば、この鎖は、神が天空から地上へ垂らすように命じたもうたものなのである」と課いている。クザーヌスではこの梯子が無限の領域にまで拡張されるために、ヒエラルキーの概念が消失してしまうところも興味深い。

ジョージ・ポアズの「マクロコスモスとミクロコスモス」では、この対応の観念の端緒がプラトンの『フィレボス(二九)にあることが指摘される。ソクラテスは宇宙の四原素に対応するものが、人間にもあることを指摘するからである。『国家』の魂の三要素論と国家の三身分論も同じことを語っている。ミクロコスモスという語そのものは、アリストテレスの『自然学』(二五二b)に登場する。動物は自ら動くことができるが、世界もこのようなものに違いないと、アリストテレスは考えられた。こうした宇宙が生き物のように語られる。ストア派は宇宙を大動物(メガ・ゾオン)と呼んだ(99)。

リア・フォルミガリの「存在の連鎖」では、存在の連鎖を普遍学的な視点から考察していておもしろい。キリスト教では神への上昇が道徳的な陶冶を通じて実現されることになるが、哲学の領域ではルルスの学問の樹のイメージなどを通じて、ルネサンスの百科全書主義、一七世紀前半の汎知学(パンゾフィー)までつながる。そしてライプニッツの充満宇宙論、ヴォルテールとカントの批判につながるわけだ。フーコーの『言葉と物』を読み直すべきか。



データ
タイトル 存在の連鎖
責任表示 C.A.パトリディーズ〔ほか〕著
責任表示 村岡晋一〔ほか〕訳
出版地 東京
出版者 平凡社
出版年 1987.8
形態 200p ; 18cm
シリーズ名 叢書ヒストリー・オヴ・アイディアズ ; 17
内容細目 ヒエラルキーと秩序 C.A.パトリディーズ著 村岡晋一訳. マクロコスモスとミクロコスモス ジョージ・ボアズ著 村上陽一郎訳. 存在の連鎖 リア・フォルミガリ著 高山宏訳. 解説 村岡晋一ほか著. 各章末:文献
ISBN 4-582-73367-0
入手条件・定価 1600円
全国書誌番号 87055542
個人著者標目 Patrides,C.A.
個人著者標目 村岡, 晋一 (1952-) ‖ムラオカ,シンイチ
普通件名 西洋哲学 -- 歴史 ‖セイヨウテツガク -- レキシ
NDLC HC1
NDC(8) 130.2
本文の言語コード jpn: 日本語
書誌ID 000001878037



2003年11月22日
(c)中山 元

ビブラリアに戻る