ポリスの外部で生きる人々 |
ポール・マケクニー『都市国家のアウトサイダー』向山宏訳、ミネルヴィ書房、一九九五年 |
ギリシアの古代史というと、ポリスのことを最初に思い浮かべる。民主主義のアテナイと寡占体制のスパルタを思い出すのだ。そしてだれもがポリスに所属していたように考えてしまう。たしかにアテナイでは、自由人の市民でなければ、政治的な権力を行使することはできなかった。ポリスの外部からきたメトイコイのことは、すっかり忘れてしまうのだ。本書はこうした盲点をついた好著である。 ギリシアで残されている書物は、プラトンのように理想都市を構想したり、アリストテレスのように人間はポリス的な動物であると考えたりする。しかしポリスをまたにかけて旅していた人々の数と重要性は無視できないのだ。傭兵たち、海賊と呼ばれたレイスタイたち、医者、哲学者、遊女たち、商人たち、王の友人たちは、前三世紀ころからギリシアの歴史を動かす重要なファクターになる。 シケリアのディオニュシオスは、多数の都市を征服し、その都市の住民をいれかえる。そして都市のうちにすめなくなった人々を傭兵としてシラクサに住まわせ、武器を与える。これが僭主を守る強力な軍隊となり、難攻不落の砦となるのである(47)。この僭主とその息子は、多量の武器を製造し、それを供給し、保管している。市民もいつでも戦士になる可能性があり、アテナイに悪用されかけたこともある。一方ではクセノフォンの『アナバシス』が示唆しているように、傭兵たちは首領の指導のもとで移動を続け、その領地の支配者よりも部隊の首領に忠誠を誓うようになる。 プラトンがかつて売られかけたように、ギリシアでは市民を奴隷として売却することを禁じていない。海賊に拿捕された船の乗客は、ときに奴隷市場で売られることがあるのは、ディオゲネスが象徴している。市民たちもポリスの内部でいつまでも安閑としていられない。敵対するポリスに占領されたら、殺戮されるか、売却される可能性はいつもあるからだ。 古代のギリシアにおいて、とくにヘレニズム期になって、ギリシアの市民たちの移動性がいかに高まったか、アレクサンドロスの帝国と、その後の帝国において、移動したギリシア人たちが、現地にいかにギリシアの文化と生活習慣をもたらしたか、これが帝国のその後の文化にどれほど大きな影響を与えたか、あらためて考えさせられる一冊である。ときどき文章がスパルタ式になっていて、読みにくいのが玉に傷。 データ タイトル 都市国家のアウトサイダー : ポリスから古代帝国へ 責任表示 ポール・マケクニー著 責任表示 向山宏訳 出版地 京都 出版者 ミネルヴァ書房 出版年 1995.6 形態 266,21p ; 22cm シリーズ名 Minerva西洋史ライブラリー ; 3 注記 原タイトル: Outsiders in the Greek cities of the fourth century B.C. 注記 巻末:参考文献 ISBN 4-623-02479-2 入手条件・定価 3500円 全国書誌番号 96061328 個人著者標目 McKechnie,Paul (1957-) 個人著者標目 向山, 宏 (1935-) ‖ムカイヤマ,ヒロシ 普通件名 ギリシャ -- 歴史 -- 古代 ‖ギリシャ -- レキシ -- コダイ NDLC GA52 NDC(8) 231 本文の言語コード jpn: 日本語 書誌ID 000002498960 2003年12月10日 (c)中山 元 |