シュミットを読み解く

ジョージ・シュワーブ『例外の挑戦』宮本盛太郎ほか訳、みすず書房、一九八〇年




カール・シュミットの政治思想を、1921年から1936年にかけて、そのおりおりの政治的な状況への対処として読みとく研究書。時代の中でシュミットの政治思想を考えることができるので、わかりやすい。ぼくの好みのアプローチだが、ところどころに無理を感じる。思想の根幹から目が外れてしまう傾向があるのは、この方法の欠点でもある。


注目した最初の論点は、大統領の一時的な憲法の停止の権限を認めた憲法四八条の解釈であり、著者はシュミットが例外措置を実行するさいに議会の信任を求めているために、議会の存立が保証されていると考えていたことに注目する。四八条がワイマール憲法を殺したのではなく、四八条が憲法を生き延びさせたという西ドイツ政府の発言も、そのことを裏付ける(68)。

またシュミットの決断主義では、生命と安寧の維持の権力と真理を決定する権力の同一化に注目。個人は自分を保護する者だけに服従する。個人を保護できるのは直接的な権力だけである。直接的な権力を保有する者は、権威をもつ。この両方をもつ者が、何が真理であるか(「イエスはキリストである」「自由、平等、博愛」)を決めることができる(72)。あらゆる政治学は神学である。

ところでこの決断を下す主権者はどこにいるのか。「正常時には主権者は、いわば休眠していて、決定的瞬間に、すなわち正常時と例外状態の境目で、突如覚醒する」(77)ことになる。ここで覚醒した主権者は、国家にとってだれが敵であるかを決定するのだ。ここの敵とは、公敵ポレモスであり、私敵エクトロスではない。

宗教戦争の後にヨーロッパでは公敵の概念が姿を消したように思えたが、マルクス主義でそれが階級対立として姿を現し、ナチズムではスラブ民族(ロシア)として再発した。マルクス主義ては国際主義のために、国家と階級の敵が異なるものとなるが、ナショナリズムとともに、その対立が収束することになる。

ベンジャミン・コンスタンの中立的権力の概念をシュミットが利用していることにも注目。高次の第三の権力は至高の権力であるが、中立的な権力は「その他の憲法条の権力に超越するのではなく、併存する」(113)。この中立的権力は憲法を保護することができると同時に、憲法の正常な機能を確保する。ワイマールでは大統領がこの中立的な権力として機能する。授権法でヒトラーに権力を授けるまでは。

ただシュミットのこうした権力論が、ヘーゲル的な国家論を一挙に越えた「運動としての権力」論とどう結び付くのか、いまだなお見えにくいところがある。大地のノモスはシュミットのどのような理論的な背景が登場するのか。「ノモスは、……法というすべてを包括する概念をもつ具体的秩序と共同体を意味する」というのだが(161)。

なおシュミットの「機会主義」は、反ユダヤ主義の主張だけにおいてみられるという著者の主張は説得力がある(292)。公敵と私敵についての詳細な解説(「二つの敵概念」も有益だ。


データ
タイトル 例外の挑戦 : カール・シュミットの政治思想1921-1936
責任表示 ジョージ・シュワーブ著
責任表示 服部平治〔ほか〕共訳
出版地 東京
出版者 みすず書房
出版年 1980.8
形態 301,7p ; 20cm
注記 原タイトル: The challenge of the exception.
入手条件・定価 3200円
全国書誌番号 80039580
個人著者標目 Schwab,George (1931-)
個人著者標目 服部, 平治 (1935-) ‖ハットリ,ヘイジ
普通件名 ドイツ -- 政治 -- 歴史 -- 1918〜1933 ‖ドイツ -- セイジ -- レキシ -- 1918-1933
普通件名 ドイツ -- 政治 -- 歴史 -- 1933〜1945 ‖ドイツ -- セイジ -- レキシ -- 1933-1945
個人名件名 Schmitt,Carl (1888-1985)
NDLC A28
NDC(8) 311.234
本文の言語コード jpn: 日本語
書誌ID 000001470113




2003年12月22日
(c)中山 元

ビブラリアに戻る