資本主義の謎

【書評】マックス・ウェーバー『古代社会経済史』上原ほか訳、東洋経済、一九五九年





もうずいぶん前の本だが、ヨーロッパの、そして世界の経済史を考える上では重要な一冊だ。マルクスは世界の経済組織体を歴史的に、主に生産関係から考察して、アジア的、古典的、ゲルマン的と分類した。これに対してウェーバーはヨーロッパだけについて次のような一つの共通の変遷形式があったと考える。

農民共同組織 → 城塞王政 →貴族制ポリス→重装歩兵ポリス→民主制市民ポリス
              →官僚制を備え都市王政→君主制ライトゥルキー国家
この違いを、宗教および社会的な背景からさまざまに考察する書物である。マルクスとは違う視点であり、訳者が指摘しているように、経済史を考える際に利用できる二つの構図の一つである。



ウェーバーの問題意識の背景になっているのは、資本主義とその行方といういつもアクチュアルな問題である。ローマ帝政のところがながながと古代都市と中世都市の違いが考察されるのも、古代の資本主義と近代の資本主義の違いと、近代の資本主義の行方を考えるためである。

この書物を読むといくつものことを考えさせられる。
□古代の資本主義はローマ帝政のときに絶頂を迎えるというが、この資本主義はなぜ長続きしなかったのか。
□ディオクレティアタスの頃からライトゥルギー国家に変身してしまうというか、それはなぜか。
□イスラエルやオリエントで、ライトゥルギー国家になるかどうかは、宗教が重要な役割を果たしていたが、このローマ帝国の変身の時期はまさにキリスト教を国教とする時期だが、キリスト教はこのライトゥルギー化に影響したのか、影響したとすればどう影響したのか。
□資本主義はなぜ古代で一度死んでから、ライトゥルギー国家から生まれなければならないったのか。これはギリシアにおける道徳の死と近代の倫理的な再生と関係はあるだろうか。
□ライトゥルギー国家は資本主義を殺したはずなのに、真の意味での資本主義がここから生まれたのはどうしてか。
□ウェーバーは官僚制のために資本主義は再び死滅すると考えているが、グローバリゼーションの現状を考えると、官僚制による死滅が起こるとは思えない。近・現代の資本主義はどのようにして死滅するか。
□資本主義に代わるシステムはどのようなものになるか。それは望ましいシステムか。

2003年9月30日
(c)中山 元

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