今週の10冊、8月3週

哲学クロニクル191号

(2001/08/24)




ハーバーマスが2001年ドイツ書籍販売協会の「平和賞」を受賞しました。ハーバーマスがドイツ共和国の進路を批判的に見守り続けて、一世代以上にわたって、時代の精神的な状況の「旗」であり続けたことが評価されました。またドイツの哲学者として、世界全体で読者を擁していることも高く評価されています。
賞金は25,000マルク。10月14日のフランクフルト書籍市の際に、例のパウルスキルヒェで授賞が行われます。ここはほぼ一週間後にデリダにアドルノ賞が授賞されるところでもあります。ハーバーマスとデリダ、なにか象徴的ですが、なにもいまさらこの二人に授賞しなくても(笑)という思いもありますね。

8月22日づけのディ・ヴェルト紙によると、イラン政府は最近は「イスラム的な民主主義」を目指しているらしく、検閲が非常に緩和されたそうです。報道の自由は、民主化のプロセスにおける「不可避の前提」とシャタミ大統領が宣言したとか。

出版でも政治的な検閲はほとんど姿を消し、亡命者の書籍も自由に販売されているらしいです。ミラン・クンデラ、エンツェンスベルガー、ハーバーマスのさまざまな書籍が「ベストセラー」になっているそうです。たしかにハーバーマスは世界的に読まれる著者のようですね。


さて、今週の10冊
○マルクスの21世紀
岩淵慶一著; 学樹書院; 3300円; 134.53; 01037616; 4-906502-23-7
マルクスの疎外論をもう一度検討し直して、マルクスの遺産を継承する方法を検討します。疎外論と労働論がマルクス論のかなめになるのはたしかでしょう。

○プラトンの形而上学 下巻
ハンス・ヨアヒム・クレーマー著; 世界書院; 2800円; 131.3; 01037631; 4-7927-2200-4おもしろそうなタイトルなのですが…。

○ハイデッガー全集 第17巻 現象学的研究への入門
ハイデッガー著; 創文社; 6200円; 134.96; 01038010; 4-423-19635-2
ハイデガー全集も遅々とではありますが、出版が続いています。『哲学の寄与」とか、早く訳してくれないかなぁ。

○フロイト フリースへの手紙 1887-1904
フロイト著; 誠信書房; 8500円; 146.13; 01038195; 4-414-40288-3
ついにフロイトのフリース書簡が邦訳されました。これは買いですね。あの厚さを考えれば、けっして高くはありません。

○近代日本を語る 福沢諭吉と民衆と差別
ひろたまさき著; 吉川弘文館; 1800円; 210.6; 01038150; 4-642-07776-6
福沢のもつ光の部分と影の部分を検討しながら、近代日本のもたらした「束縛」を克服する方法を考察します。

○新井白石の政治戦略 儒学と史論
ケイト・W.ナカイ著; 東京大学出版会; 5000円; 210.55; 01038186; 4-13-020132-8
白石は天皇と将軍の二元的な支配に挑戦し、将軍を真の「王」としようとしたそうです。白石の戦略を解明しながら、江戸時代の日本の政治秩序の特徴を考察します。著者は上智大学比較文化学部の教授。

○「記憶」の共有を求めて 国際シンポジウム戦争と紛争の世紀の終わりに 今、なぜ真相究明なのか
「国際シンポジウムの記録」編集委員会編; 樹花舎 / 星雲社; 1000円; 329.67; 01037393; 4-434-01214-2
小泉総理の靖国神社参拝問題で、アジア諸国の不信感に火がついた感がありますね。戦争の記憶をどう共有するか。ホットなテーマでもあります。

○日本の大国化とネオ・ナショナリズムの形成 天皇制ナショナリズムの模索と隘路
渡辺治著; 桜井書店; 3000円; 312.1; 01038321; 4-921190-10-0
1990年代以降の日本の軍事大国化を天皇ナショナリズムと捉えて、戦前との比較を行います。

○フレーゲ著作集 5 数学論集
G.フレーゲ著; 勁草書房; 5200円; 410.96; 01038048; 4-326-14824-1
フレーゲの著作の邦訳も進んできました。今回は数学論集。助かりますね。「1880年代から1920年代にかけて著した論争的な論文・講義録・書評など13篇を収録」するそうです。

○カメラ・オブスキュラの時代
中川邦昭著; 筑摩書房; 1200円; B742.5; 01038282; 4-480-08655-2
1997年に出版されていた中川さんの『映像の起源』(美術出版社)を改題して再版しました。

○江藤淳コレクション 2 エセー
江藤淳著; 筑摩書房; 1500円; B918.68; 01038284; 4-480-08652-8
江藤淳の著作が入手しにくくなっているので、便利かも。

おまけ
○国家と革命
V.I.レーニン著; 筑摩書房; 1000円; B309.338; 01038283; 4-480-08657-9
レーニンの『国家論』、筑摩はなぜ再版しようと思ったのか、少し謎(笑)。謎解きをしたらご報告します。なぜレーニン(笑)。