建物よりもはるかに美しい遺跡

哲学クロニクル219号

(2001/10/18)




仕事がたてこんで、二日ほどお休みしました。また再開です。今日は一息ついて、事件直後のアメリカ人作家、ノーマン・メイラーの報告です。タイムズ紙の電話インタビューで、素直な反応が読めます。ちょつと脚色した翻訳(笑)。


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アメリカは世界でもっとも憎まれる国になる
ノーマン・メイラーへのインタビュー、タイムズ、9月13日

78歳になるメイラーは、インタビューでテロに激怒しており、廃墟になった世界貿易センター・ビルは、絶対にアメリカの国家的な遺物になると主張している。
「政府にわずかでもまともな感覚が残っていれば、この廃墟はこのまま残すだろう」というメイラーは、この「遺跡は建物よりもはるかに美しい」と、永久保存を求めている。

アメリカでは事故の直後からみんなが、ずっとテレビの前にかじりついていいるという。「こんなことは生涯にめったないことだ。ジャック・ケネディ、ボブ・ケネディ、マーティン・ルーサー・キング、10回もないだろう」。

「テロは忌まわしい。自分の死をある程度はコントロールしたいという人間の欲望を滅ぼしてしまうからだ。ぼくは殺されるなら、ぼくを撃つ相手の目をみていたい。不意打ちのように殺されるのはいやだ」。

「ナチスはさまざまな恐怖をもたらしたが、なによりも怖いのは、これからシャワーを浴びるのだと考えていた人々に、ガスを吸わせたことだ。これが究極の恐怖だ。この種のテロは、この残酷さに匹敵する」。

長年にわたってアメリカの権力と政府を批判してきたメイラーは、この攻撃はある意味で皮肉な事態をもたらしたと考えている。「この恐怖のもたらした好ましい結果の一つは、これでわれわれがスター・ウォーズについておしゃべりするのをやめるだろうということだ」。さらにこれはグローバリゼーションにも打撃になる。「アメリカとグローバリゼーションは絶対に切り離すことができない。グローバリゼーションとは、マクドナルドのハンバーガーがネクタイを締めたようなものだ」。

「いまや巨大企業で、テロで破壊されるようなものに、数十億、数千億の資金を投資するような企業があるだろうか。だからグローバリゼーションにとっては打撃になる。スター・ウォーズにも打撃になる。今回のテロが完全な破壊だけでなく、好ましいものをもたらしたとすれば、この二つの打撃がそうだろう。しかしアメリカ人に対する打撃は巨大なものだ」。

「アメリカは攻撃の精密さに恐怖を覚えた。これがアメリカのような若い国につきもののパラノイアに火をつけるだろう。アメリカでは、自分が生まれた家や病院を見つけるのは至難なわざだ。すべてが変わってしまう。精神的にはどのアメリカ人も、役者のようにして生きている。巡業にでている役者のように、自分が今晩寝る家がどこなのか、わからない暮らしをしているのだ。このためにパラノイアがとても多い。どこかに〈根差している〉という感じがなく、どこから脅威が訪れるか、わからない。だからいとも簡単に想像力が膨れ上がり、化膿してしまう」。

「アメリカは、なぜテロが行われほど、人々がアメリカを憎いでいるのかを理解する必要がある。アメリカが自覚していないのは、世界の多くの国々、とくに後進国では、アメリカが文化的な抑圧者であり、美的な抑圧者であるとみられているということだ。アメリカがやってきて、マクドナルドのような食べ物を押しつける。世界でもっとも貧しく、ちっぽけな国の首都の空港の周囲に、高層のホテルや建物が並ぶまで、高層建築を増やし続ける」。

「多くの人々がそのことを心から恨みに思っている。彼らには、快適な生活はなく、民主的な政府もないが、ともかく〈根差した〉生活だけはあった。これが彼らに残された唯一のものだったのだ。それなのに、アメリカがこれを奪ってしまうのだ」。

「アメリカが押しつけているアメリカ風の生活スタイルや、巨大な利益をあげ続ける生活スタイルは、世界の大部分の国には必ずしもふさわしいものではないことを自覚するまでは、アメリカは苦難に悩まされ続けるだろう。アメリカは世界でもっとも憎まれる国になるだろう」。


作成:中山 元  (c)2001

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