グローバリゼーションの新しい方向性(2)

哲学クロニクル230号

(2001/11/14)





テロ以後のグローバリゼーションの反省を踏まえた国際組織の新しい提案を紹介したグローバリゼーションの新しい方向性の後半です。希望を語るのはたやすいのですが……。


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○地球規模での独創的なマーシャル・プランが必要だ(リカルド・ペトレラ)イタリア、エコノミスト、リスボン・クラブの会長

画期的な変化が訪れた。人間性を尊重する組織が不可避であり、不可欠であると考えられるようになったのだ。9月11日のテロの原因は、暴力に、部分的に経済的な暴力に基づいたグローバリゼーションにあったからである。今後の15年間に優先すべき課題は、暴力のグローバリゼーションを促進する動きと戦うことにある。新しい世界経済は、すべての人に生活の権利を認める経済とならねばならない。

地球的な規模での新しいマーシャル・プランを考えてもよいのではないか。もちろん別の名前で、別の論理に基づいて。豊かな国々の期待するものと、貧しい国々に固有の状況のバランスをとったプランが必要である。これは夢などではない。この経済および社会的な世界契約は、将来の経済効率の土台となるものだろう。

そのためにはまず、地球の資源をもっと新しい方法で有効利用する必要がある。民間の資本家の利益を最大にすることを目指すのではなく、社会資本の増大を目指すのだ。すべての人が基本的なサービスと財を利用できるようにする社会資本の増大こそが望ましい。

○「経済保障評議会の設立を」
ジャック・ドロール
元欧州委員長

しばらく前から、共産主義の崩壊後の歴史についての楽観的な予測はあやしいものだという見解が広まっていた。憎悪は拡大し、疎外の原因はたえず増えるばかりだ。今回の残酷な出来事の犯人を処罰すべきであるのはもちろんだとしても、他に何を望むべきだろうか。まズ第一に、、国連のもとでテロリズム問題を審議し、「生存する国家」の共同体に残りたいすべての国が遵守すべきテロリズム規制を策定すべきだろう。

わたしはそのための協議と規制作成のための枠組みを提案した−−経済保障評議会である。ここには主要な工業国とすべての大陸の代表が参加し、地球において持続可能で平等な開発を実現するための改革を作り出せるだろう。文明間の対話を奨励したアナン国連事務総長のイニシアティブも忘れてはならない。

○「アフリカの苦境への配慮を」
アミナタ・トラオレ
マリ、元文化大臣、NGO代表

政治家のイニシアティブによってではなく、文明社会の圧力と、アメリカへの大衆的な批判によって、人々は目覚めるだろう。世界はあまりに急激に激動している。アフリカの諺がある。「ダンスのペースが速くなりすぎると、ドラムが壊れるか、ダンスが止まってしまう」。西洋諸国は、みずから負債として、アフリカの苦境について考えるべきときがきている。

9月11日の出来事とは別に、人種問題と植民地化の補償の問題が取り上げられたダーバン会議がアフリカでは重視されている。豊かな諸国は歴史をきちんと認識していない。歴史をふりかえってみれば、どれほどの傷がまだ残されているかが明らかになるだろう。アメリカはこの事件で初めて、構造調整、戦争、腐敗とともに、アフリカの大地でわれわれが毎日のように経験している苦痛を味わったのである。これによってアメリカは、「世界、それはアメリカのことだ」という論理を捨てるようになるかもしれない。

○「地球的な規則の作成を」
ジャック・アタリ
フランスのミッテラン大統領の元顧問

世界的な統治が欠けており、必要であるという問題に取り組もうという意思は、アメリカにもヨーロッパにもみられないようだ。9月11日のテロの翌日になっても、欧州連合にはアメリカにそのための働きかけをした国はなかった。だれもがエゴイズムのグローバリゼーションのうちに暮らしているのである。アメリカは、世界の他の諸国の影響を受けていることは認識しているが、問題を地方的に解決しようとしている。地球の他の諸国が協力しないとしたら、アメリカやその他の諸国の銀行口座を凍結しても、いったい何の役にたつというのか。

だから地球的な規模での規制が必要なのである。現在のほんとうのリスクは、帝国を形成するようなグローバリゼーションが加速することだ。われわれの味方でないものは、当然ながらわれわれの敵である。われわれで話し合って、地球的な規制を策定するように努力し、ほんとうの国際協力を作り出して、貧困をなくすことが、これまでになく求められているのだ。われわれは、貧困との戦いに勝利しない限り、暴力との戦いに決して勝利すできないだろう。

○「多国間の新しい協力を」
ルーベンス・リクペロ
ブラジル、国連貿易開発会議(UNCTAD)の理事長

テロとの戦いをこえて、もっとも豊かな諸国は、もっとも貧しい諸国にすばやく手を差し伸べる必要がある。世界経済が減速するとともに、豊かな諸国からの輸出が減少し、法外な金利を設定しない限り、外国資本の流入は低下することになるだろう。豊かな諸国にとっての唯一の資金調達方法は、外国資本の流入なのである。貧しい国も開発途上国も、9月11日のテロで経済的に弱体化した。新たな経済危機によって、これらの諸国がさらに貧困のうちに突き落とされないようにする必要がある。

アメリカは、自国の経済を維持するための措置を取ることはできた。しかし最貧国のためにに、いかなる措置がとられたというのか。グローバリゼーションのため、とくに国連貿易開発会議(UNCTAD)のもとで、さらに大規模な多国間の協力が必要とされている。後発途上国と分類されている国は世界に49か国あるが、そのうちの39か国はアフリカにある。アフガニスタンがこの後発途上国のうちでも、もっとも貧しい国であることを、改めて指摘する必要はあるのだろうか。


作成:中山 元  (c)2001

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