金のにおいのする戦争

哲学クロニクル233号

(2001/11/23)






今回は前回と同じく作家のインタビューから紹介しよう。1993年にノーベル賞を受賞した作家であるトニー・モリソンだ。自分のことを「自分はジェノサイドを生き延びた者」と語っているのは印象的だ。

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【問】九月一一日の出来事はどう受けとめられましたか。ニューヨークにおられましたか。
【答】いいえ、ニューヨークの北のハドソンの近くの自宅におりました。息子が電話してきて、世界貿易センターに航空機が衝突したと教えてくれたのです。多くの人と同じように、わたしは最初は事故だと思っていました。次に別のタワーに二機目の航空機が激突したのです。

わたしはテレビに釘付けになっていました。起きている出来事を同時に体験するという異様な経験でした。繰り返し浮かんできたのは、なぜ、なぜ、どうしてということでした。噂やあいまいな情報が飛び交いました。そして政府はなにも発表しないのです。ブッシュもチェイニーも。限り無く長い沈黙が続くような気がしました。

【問】第一印象は。
【答】カタストロフィーのショック状態でした。そして「まだ攻撃が続く」と繰り返し言われたのです。でもわたしの感じたのは、もっと個人的な性格のものでした。あの二つのタワーには、プリンストン大学のもとの生徒たち、友人の友人たちがいたのです。わたしは亡くなった方々のことを考えていました。亡くなった方のことばかりです。いまでも考え続けています。

【問】いま進行中の戦争については。
【答】これはまったく性質の違う戦争です。アメリカに加えられた暴力が原因となった戦争ですが、わたしはこの戦争はお金の匂いがすると思わざるをえません。道徳などとは違うものが含まれているのです。

【問】あなたにとって宗教とは。
【答】タリバン体制の宗教的、文化的、政治的な目的が、ムスリム世界の一部で共感をもって迎えられているのは明らかです。しかし政治と宗教のこの恐るべき連合のために、非常に錯綜した状況が生まれています。

【問】ノーベル賞を受賞されたとき、愛国心を感じるといっておられました、いまでもそうですか。
【答】そんなこと言いましたか(笑)

【問】言われました。でも1962年以来、アメリカ生まれとしては初めての作家としてノーベル賞を受賞して、愛国心を感じると説明されたのでした。【答】そうそう、わたしがアメリカを代表しているような印象を受けたのはたしかです。こんなことを感じたのは、はじめてでした。フランス人やイギリス人ならふつうのことなのでしょうけど、わたしは自分の国籍について考えるということはめったになかったのです。

アメリカでアフロ・アメリカンであるということは、どうしても他なる者であることなのです。アメリカではアメリカ人というのは、白人のことです。わたしはいつもこの距離を感じてきました。わたしの一家の歴史はそれを明らかにしています。投票権はなかったし、白人の酒場でお酒を飲む権利もなかったのです。アメリカはわたしたちを信頼せず、わたしたちがいなければいいと思っているという印象を受けざるをえないのです。いまでは、わたしは自分がなぜアメリカに住んでいるのだろうと、不思議に思うほどです。

【問】どうしてですか。
【答】奴隷虐待で六千万の人が亡くなっています。二億の奴隷たちが死亡したと考えている歴史家もいるのです。これはジェノサイド以外のものではありません。わたしは自分はジェノサイドを生き延びた者だと感じているのです。

【問】それでも愛国心を感じるのですね。
【答】そうです。わたしは、すべての市民は政府が国民の名においてすることの責任を追うと思います。ですから、アメリカが世界で、かなりサドマゾヒズム的なやりかたで(笑)やっているすべてのことに、とても強い責任を感じます。愛国心を感じるかと尋ねられたら、感じると答えるでしょう。ただし愛国心とは、慎重さ、責任、批判と結びついた態度だと定義できるならばですが。

【問】少しペシミストなのですね。
【答】ちょっと違いますね。わたしの小説の読者には、いま一般に採用されているのとは違う解決策があるということを考えてほしいのです。アジアでいま起きていることを考えてみてください。わたしたちは軍隊というもっとも簡単な解決策を選びました。テレビでアフガンの難民がテントで暮らしているのをみると、同情を感じますよね。こうした画像を一日中みているのです。それでもこの状況の原因について、これがどうして起きているかについては、まったく問われないのです。いまのアメリカでは、こうした問いを提起するすべての動きが、一貫して拒否されているのです。



作成:中山 元  (c)2001

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