(2001/12/20)
ロイの最後の部分です。ビンラディンはブッシュのドッペルゲンガーだというのは、いかにもうまく言いえていて、有名になりました。あと本日、911テロ問題についてのぼくの本が刊行されました。最後にご案内を添付してあるので、ごらんいただけると幸いです。
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オサマ・ビンラディンがいなかったなら、アメリカは彼を発明する必要があっただろうという意見を聞いたことがある。しかしじつのところ、彼を発明したのはアメリカなのである。一九七九年にCIAがアフガニスタンで作成を開始した際に、ビンラディンは聖戦の戦士の一人だった。ビンラディンは、CIAが生み出し、FBIが懸賞をかけているという珍しい人物である。わずか二週間のうちに、ビンラディンはただの容疑者から主要な容疑者に格上げされ、まったく証拠はないにもかかわらず、「生死を問わず」つかまえるべき人物になったのである。
ビンラディンが九月一一日の襲撃と関連している証拠を、裁判所の厳しい審問で、証拠として認められるような証拠をみつけるのは、どうみても不可能なようである。これまでのところ、もっとも有力な証拠は、ビンラディンが事件を非難していないという事実にすぎないのである。ビンラディンがどこでどのように暮らしているかを考えると、この攻撃を彼がみずから計画して、実行したのではないということも、十分に考えられる。彼はインスピレーションの源となる人物、「持株会社の最高経営責任者」のような存在かもしれないのである。
ビンラディンを引き渡すように求めた米国にたいして、タリバンの回答は、タリバンらしからぬほど妥当なものだった−−証拠をみせろ、証拠があれば引き渡すというものだったのである。ブッシュ大統領はこの要求を、「交渉できない」と拒んだのだ。 ところで責任者の引き渡し交渉が続いているついでに、インドは米国にウォレン・アンダーソンの引き渡しを要求できないものだろうか。彼は一九八四年に一万六千人の死者を出したポーパルのガス漏れ事故を起こしたユニオン・カーバイド社の責任者なのである。インドはすべての必要な証拠を揃えた。お願いだから、引き渡してもらないだろうか。
しかしオサマ・ビンラディンとはそもそも誰なのだろうか。ビンラディンはアメリカの外聞をはばかる家庭の秘密なのである。アメリカの大統領の暗いドッペルゲンガー(分身)なのだ。美と文明にかかわるすべての事柄にかかわる野蛮な双子なのである。
ビンラディンは、アメリカの砲艦外交、核兵器、「全領域支配」と野卑な言葉で表現された政策、アメリカ以外の国民の生命への冷淡な無関心、野蛮な軍事介入、専制的で独裁的な体制の支援、貧しい国々の経済をイナゴのように食い荒らす冷酷な経済政策など、アメリカの外交政策のためにやせ衰えた世界の肋骨から生まれた秘密の双子なのだ。
わたしたちに襲いかかって、わたしたちが呼吸する大気、わたしたちが立つ大地、わたしたちが飲む水、わたしたちが抱く思考を奪い去ってしまうアメリカの多国籍企業。そしていまや家庭の秘密が暴かれたので、この双子の境界があいまいになり、たがいに取り替えることができる存在となってきた。しばらく前からこの双子の銃、爆弾、資金、麻薬が、輪を描くように循環し始めている。
米国のヘリコプターを迎撃するスティンガー・ミサイルは、CIAが提供したものだ。アメリカの麻薬中毒者が使うヘロインは、アフガニスタンから密輸されたものだ。ブッシュ政権は最近、「麻薬との戦い」への助成金として、アフガニスタンに四三〇〇万ドルを供与したばかりである。
いまやブッシュとビンラディンは、たがいのレトリックを真似し始めた。たがいに相手を「蛇の頭」と呼んでいる。どちらも神の名をもちだし、千年王国論者好みの善と悪というあいまいな概念を駆使する。どちらも疑いようのない政治的な犯罪に手を染めている。どちらも危険な武器を手にしている。ブッシュはいかがわしいほどに強力な核兵器を保有している。一方ビンラディンは、完全に絶望した者だけがもつ破壊的な力を発揮している。火の球とアイスピック、棍棒と斧で武装しているようなものだ。しかしわたしたちには、どちらも受け入れられる選択ではないことだけは、忘れないようにしよう。
ブッシュ大統領が世界の人々に突きつけた最終宣告、「味方でない者は敵だ」は、不遜なほどに傲慢な言葉だ。どちらにつくか、世界の人々は選択したくもない。選択の必要もないし、選択を迫られることもあってはならないのである。
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以下、ぼくの新刊『新しい戦争?』の宣伝です。本日発売です。
★12月20日刊行!――全国主要書店にて好評発売中━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━新 し い 戦 争 ?――9.11テロ事件と思想━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★中山 元 著 46判並製/128頁/ISBN4-925220-05-5/本体1000円──────────────────────────────────
思想は暴力に対して無力か?
サイード、ジジェク、デリダ、ネグリ、ヴィリリオ、
チョムスキー、ソンタグ、スピヴァック、アガンベン……。
知識人たちは未曾有の9.11テロ事件をどう語ったか。
犯罪か戦争か? グローバリゼーションのゆくえは?
全世界が直面するこの巨大な問題を考え抜くために。
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★案内ページ(書影や目次などの情報):http://thought.ne.jp/html/adv/nww/index.html
★関連サイト「9.11テロ事件特集――哲学クロニクル・スペシャル(中山元)」http://nakayama.org/polylogos/chronique/911index.html
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★本書の内容
■第1部 9・11テロ事件の反響と余波
○衝撃と反省
○報復の原理
○市民の自由の制限
○ポストコロニアル思想とサイード
○アカデミズム批判
○ヨーロッパの反応
○南の諸国からの批判
○植民地と帝国主義の理論
○バイオテロとテロの中の生活
■第2部 9・11テロ事件を考える五つの視座
◇第1章 テロリズムと戦争
テロか戦争か
新しい戦争
テロとはなにか
世界システムの鬼子
テロと戦えるか
テロリスト論
非対称戦争
世界戦争
◇第2章 文明の衝突か
◇第3章 宗教の衝突か
宗教と戦争
宗教は危険か
イスラム教は劣った宗教か
宗教の声に耳を傾けよう
◇第4章 メディアとリアリティ
テロとメディア
アメリカの現実認識
ヴァーチャル・リアリティの世界
◇第5章 反グローバリズムをこえて
反グローバリゼーション運動への打撃
国際組織の側の自覚
反グローバリゼーションの側の変化
他なるグローバリゼーション
新しい地球規模の社会契約
◇最 後 に
■付録 インターネットの9・11テロ関連リソース
○報復と自衛の論理
○テロとインターネット
○テロリズムのリソース
○バイオテロ・リソース
○論 集
■テロとインターネット――後書きにかえて
■索 引
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★取り上げられる思想家たち
アガンベン,ジョルジョ
アタリ,ジャック
アミン,サミール
アリ,タリク
アリミ,セルジュ
イーグルトン,テリー
ウォーラーステイン,イマニュエル
エーコ,ウンベルト
カーツ,スタンリー
加藤尚武
柄谷行人
カント=シュペルベ,モニク
グラス,ギュンター
クラストル,ピエール
クリステヴァ,ジュリア
グリュックスマン,アンドレ
グロイス,ボリス
グロスマン,デーヴィッド
コーネル,ドゥルシラ
コーン=バンディ,ダニエル
サイード,エドワード
サッセン,サスキア
佐和隆光
ジェームソン,フレデリック
ジジェク,スラヴォイ
シャイェガン,ダリウシュ
シュミット,カール
シュミット,ヘルムート
ジョルジュ,スーザン
ジョンストン,ドナルド
ジョンソン,ポール
ジラール,ルネ
スタイン,マーク
スピヴァック,ガヤトリ
スローターダイク,ペーター
ソマビア,フアン
ソンタグ,スーザン
タルタコウスキー,ピエール
チョムスキー,ノーム
デリダ,ジャック
ドゥブレ,レジス
トゥレーヌ,アラン
ドーキンス,リチャード
ドロール,ジャック
ナンシー,ジャン=リュック
西谷修
ネグリ,アントニオ
ネグリ/ハート
バーバー,ベンジャミン
ハーバーマス,ユルゲン
バトラー,ジュディス
ハルバースタム,デーヴィッド
ハンシャー,フィリップ
ハンチントン,サミュエル
ヴィリリオ,ポール
ファーガソン,ニオール
フクヤマ,フランシス
ブッシュ,ジョージ
ブルデュー,ピエール
ベルク,オギュスタン
ベルルスコーニ,シルヴィオ
ベン・ジェルーン,タハール
ベンヤミン,ヴァルター
ボードリヤール,ジャン
ホーネット,アクセル
ボルツ,ノルベルト
マルクス,カール
ミラー,アリス
ミルン,シューマス
メイラー,ノーマン
メルロ=ポンティ,モーリス
モリソン,トニー
ラシュディ,サルマン
ラマダン,タリク
ラムズフェルド,ドナルド
レヴィナス,エマニュエル
ロイ,アルンダティ
ローティ,リチャード
ロスステイン,エドワード
ロブ=グリエ,アラン
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取扱書店など詳しくは、
冬弓舎のサイト「thought.ne.jp」(http://thought.ne.jp/)に掲載されています。このサイトで直接注文もできます。送料は無料です。よろしくお願いします。
作成:中山 元 (c)2001
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