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ポリロゴス通信第四号(1999/12/11)
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○SICとはなにか?(原 宏之)
○SIC関連サイト(原 宏之)
○新椋鳥通信第一号
○近刊の哲学関連書
○オフラインの哲学雑誌(P-Journal)の目次
 □思想,1999-12, no.906
 □Philosophy & social criticism, 1999, v.25-6
 □Synthese, 1999, v.118-2
 □Philosophical studies, October 1999, v.96-1
 □Mind, October 1999, v.108, n.432
 □The journal of speculative philosophy, 1999, v.13-2
 □Political theory, October 1999, v.27-5
 □Philosophical studies, September 1999, v.95-3
 □Continental philosophy review, 1999, v.32-2
 □Phronesis, 1999, v.44-2
○お便りコーナー
====================

今回は、以前お知らせした『ポリロゴス書籍版』にも執筆をお願いしている原宏之さん
に、フランスで最近注目されている情報・コミュニケーション科学(SIC)という分野につ
いて紹介していただきました。これはコミュニケーションの物質的な側面を重視しなが
ら、とくに技術哲学の側面から考察しようとするもので、哲学的にも興味深いも
のをもっています。

なお、今後もポリロゴス編集部では、外部の方々に寄稿をお願いするつもりです。ぜひ
ご意見やご要望を編集部までお寄せください。

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●SICとはなにか?
(原 宏之)

<グローバリゼーション>
 先月30日からシアトルで開催されたWTO閣僚会議は、ロンドンやパリなど世界各
地での大規模な抗議デモをひきおこした。シアトルには、WTOに反対する農業者団
体、労働組合、環境保護団体、地元学生組織など約5万人が終結し、60年代を彷彿さ
せる熱気ただよう抗議運動を展開した。反対運動が世界各地に拡大したことは、直接
的な利害を越えた「グローバリズム」一般に対する拒否反応を物語る。ハンバーガー、
コーラ、ハリウッド、テーマ・パーク、世界に蔓延する(しばしば米国起源の)カル
チャーは、万人受けする最大公約数的なグローバルな性質ゆえに、味気ない希薄なも
のだという逆説をもつ。メディア、通信から貿易へ、コミュニケーションの爆発[*1]が
逢着した「地球村」の悪夢と対決すること、これが今回紹介するSIC(情報・コミュ
ニケーションの科学)というフランスの学問のひとつの基本的な姿勢である。
 このたびの反WTOの運動は、テレビ中継や新聞報道、インターネット・サイトで
のリアルタイムの伝達を通して、世界各地のひとびとによって同時に体験されたとい
う事実によって、あらためてコミュニケーションの世界化という現実を思い起こさせ
た。 世界化への道は国民国家の創造を経由する。1830年代のヨーロッパに頂点を迎
える、交通や郵便、出版などのあらゆる面での国土のネットワーク化は、「日刊紙」
という「世俗化された朝のお祈り」(ヘーゲル)により、国民に共通の時間感覚をも
たらし、公教育により共通の国語を形成していた。その後、第二の段階としてコミュ
ニケーションは世界に拡がる。電信の実用化と電信網の海峡を越えた広がりによって
通信社のネットワークが世界を覆うようになるのは19世紀後半のことである。[*2]
初の大西洋横断ケーブルの敷設から約100年の時を経て、1965年「アーリー・バード」
と名づけられたひとつの静止通信衛星が軌道にのる。やがて世界を覆うことにな
るIntersat のこの第一号は、コミュニケーションの世界化のあらたな局面を記念す
るものであった。拡大するコミュニケーションの網を伝って刻々と人間の生活を追い
立てる事柄は、「屋敷の耕地や地を覆う空、昼と夜との時の歩み、村の習俗よりも一
層身近なのである」とハイデガーはその不気味さを語っていた。

<コミュニケーションのユートピア>
 コミュニケーションのイデオロギーの起源をどんどんと遡及的におってゆくところ
が、コミュニケーション研究のなかでも歴史主義的な傾向をもつSICのフランス的
独創性である。N.ウィナーのサイバネティクスの創始をもってして、近代的コミュ
ニケーション概念の誕生を認める立場では合意があるものの、そこに断絶を認めて今
世紀の研究に特化するか、さらに遡ってアンシアン・レジーム期の交通政策や解剖学
などの近代科学のなかにその萌芽を見出すか、このふたつのオプションがSICの学
派を二通りに分かつポイントだということがいえる。前者の立場では、サイバネティ
クスから情報理論、システム理論、情報科学やAIへというようにアメリカで発展し
た今世紀の最も輝かしい学問成果に、「コミュニケーション」というイデオロギー、
あるいはユートピア思想の根源を仮定して[*3]、ときにはその反=人間主義的な性格を
弾劾する。サイバネティクスと並べて、マネジメントやマーケティングという近代合
理主義的な数値や計算の人間や社会への適用が非難されることもよくある。[*4] 後者は、
思想・科学史や政治・経済面での戦略に関する膨大な史料からコミュニケーションの
考古学を試みるが[*5]、そのなかでも最も注目されることの多い思想家は19世紀フラン
スの社会主義思想家クロード・アンリ・ド・サン=シモンである。サン=シモンの社
会ネットワークの信仰は、国立土木学校(ポン・ゼ・ショウセ)出身の技術官僚や企
業家を中心とする彼の弟子達によって、金融や教育、道路、海運、鉄道などの有機的
に結ばれた社会構造の整備を推進してゆく。中心人物のひとりアンファンタンは、
「拡げよ、広めよ、君自身が創造者でもあり主人でもあるこれらの新たな経路により、
神の息吹と人類の教育を」と信者たちを鼓舞した。[*6]

 マットラールがパイオニアであるコミュニケーションの考古学は、あらゆる分野を
脱領域的に縦断することで、たとえば経済思想での「分業体制」(スミス)、「循環」
(ケスネーからミルまで)という自由貿易体制への道と経済活動での「世界交通」
(世界史化)の実現、技術革新によるインフラストラクチャーの整備とコミュニケー
ションの思想などを時系列的に吟味する方法論をもたらした。

 ここでふたつに区別した学派は、いずれもテレコミュニケーションをコミュニケー
ション・テクノロジーの最も重要なものとして認める点では共通していることを付言
しておく。

<技術決定主義と技術批判>
 コミュニケーションの世界化は、テクノロジーの発展と切り離させない関係にある。
フランクフルト学派の影響が強いSICでは、従来から「技術批判」がひとつの大き
なモチーフとなっていた。マクルーハンが典型である技術決定論は、フランスでもコ
ンドルセによる印刷術の賞賛からの伝統をもつ(印刷術の<以前>/<以後>での政
体の比較)。SICではジャック・エリュールやハーバマスなど隣接分野での理論に
支えられて技術を批判するという人文主義的伝統が生きていたが、これもやはり技術
決定論の否定的側面にすぎない。技術批判の傾向に対するアンチテーゼとして登場し
たのが、ルロワ・グーランやシモンドン、ダゴニェ、ジャック・デリダらの技術哲学
に影響を受けたメディオロジーの理論家たちである。

 ダニエル・ブーニューは、技術をサタンと見なすハイデガー、スフェーズ、ミシェ
ル・アンリまでの系譜を弾劾し、記号圏と技術圏を区別しつつ双方を同時に吟味する
ことの必要を訴えた。[*7] シャルチエやジャック・グッディの仕事に代表されるように、
技術決定論は否定される方向にあったが、これを再燃させたのがレジス・ドゥブレー
である。ドゥブレーは、「ソシオの上流にテクノを置くこと」とその技術決定論を明
確に打ちだしている。「社会上部の機能を伝達作用の技術的構造とのかかわりにおい
て扱う」メディオロジーは、「集団的象徴活動(記号の産出)とその際の諸痕跡の組
織化、諸痕跡の記録とアーカイヴィング、流通」の関係を研究するものであり、諸痕
跡の記録やアーカイヴという技術的側面が記号学的次元を決定するのだとドゥブレー
はヒエラルキーを逆転させる(『メディオロジー宣言』)。ドゥブレーは、マクルー
ハン理論の焼き直しである三圏説により、共同体の存在様態をロゴス圏(口承が支配
的である写字本文化)、文字圏(印刷術以降の歴史的社会)、映像圏?テレビと直接
性の回帰)と分割することによって、技術決定論の立場を明確にしている(『一般メ
ディオロジー講義』)。学問的な厳密さを欠いたドゥブレーの図式主義には批判され
るべき要素も数々あるが、彼の提言にある重要な示唆を忘れるわけにはいかないだろう。

<グラマトロジコ−メディオロジックな転回>
 ドゥブレーの示唆とは、記号学の問題点を明らかにしたことである。メディオロジー
は、「意味の物質的側面」に関心をもつという。記号学は「道具とともに身体をも捨
て去り、技術と感覚能力を隠蔽する」ものとして糾弾される。たとえばコミュニケー
ション図式での発信者から受信者へのメッセージの「輸送」は、あるイデアルな内容
が無傷で送られるという考えを前提としている。またシニフィエ/シニフィアンとい
う超越論的な記号の設定からは、コミュニケーションの支持体という技術的側面を問
う契機が入る余地はないのである。ドゥブレーは、だから記号を痕跡に置き換えるこ
と、痕跡の記録や流通を問うことが大切であるといいながら、シニフィアンをシニフィ
エから解放したグラマトロジーを乗り越えるかのような発言を繰り返すのであるが、
実際のところはドゥブレーのアイデアはデリダの仕事の応用でしかないだろう。この
不当に言及されずに、メディオロジーへの影響が不透明なままに隠蔽されている哲学
者は、痕跡一般の問題をあつかうために「エクリチュール」から出発したことにより、
技術を射程に収めながらメディオロジーの方法論をすでに先取りしていたのである。

 前項でとりあげなかった重要なメディオローグにベルナール・スティグレールとい
うデリダ派の技術哲学者がいる。記憶の問題から技術がそれほどシンプルなものでは
ないことを見せたデリダの仕事とも関係を保ちつつ、スティグレールはエクリチュー
ルを中心に据えながら支持体の変化(文字/アナログ/デジタル・テクノロジー)を、
時間や記憶という人間の存在把握の根源的なテーマと結びつけて論じている。[*8]

 SICの全体像をつたえるにはあまりにも舌足らずなものとなってしまったが、興
味をもたれた方はぜひここで紹介した文献にチャレンジしてほしい。

*1 Phillipe Breton et Serge Proulx, "L'explosion de la communication, La
Decouverte, 1989.
*2 Patrice Flichy, "Une histoire de la communication moderne", La
Decouverte, 1991.
*3 Philippe Breton, "Utopie de la communication", La Decouverte, 1992.
*4 Lucien Sfez, "Critique de la communication", Seuil(=Points), 1992.
*5 Armand Mattelart, "L'Invention de la communication", La Decouverte, 1994.
*6 Pierre Musso, "Telecommunications et philosophie des reseaux", PUF, 1997.
*7 Daniel Bougnoux, "La communication par la bande", La Decouverte, 1991.
*8 Bernard Stiegler, "La technique et le temps", tome 2, Galilee, 1996.


●SIC関連サイト

○France-diplomate/Ministere de la culture et de la communication
http://www.diplomatie.gouv.fr/
http://www.culture.gouv.fr/culture/
フランス外務省
文化省
のページ。自由貿易の符丁に「文化例外」をとなえるフラン
ス政府の立場を理解するために。

Internet-France
http://www.internet.gouv.fr/francais/index.html
フランス政府の情報通信に関する行政のページ。オフィシャルな報告書にもリンクで
ゆけます。

Mediologie
http://www.mediologie.com/
雑誌「カイエ・ド・メディオロジー」のバックナンバーがオンラインで読めるほか、
メディオロジー関連の貴重な情報が満載です。

Terminal
http://www.terminal.ens-cachan.fr/Terminal/
SICの代表的な雑誌のひとつ「テルミナル」のページ。いくつかの記事が読めます。

Hypermedia-Universite Paris VIII
http://hypermedia.univ-paris8.fr/
パリで最大のSIC学部、パリ第8大学「ハイパーメディア学部」のページ。つねに
新しい情報があり、またP.レヴィのテクストなど重要な資料を公開しています。

Solaris
http://www.info.unicaen.fr/bnum/jelec/Solaris/
SIC研究グループGirsicによるオンライン雑誌「ソラリス」のページ。おどろくほ
どハイクオリティです。創刊号の執筆陣には、ドゥブレーやシャルチエなどが参加し
ています。

Tekhnema: The Journal of Philosophy and Technology(英語)
http://www.gold.ac.uk/tekhnema/
直接SICとは関連しないですが、技術哲学の雑誌。スティグレールの論文の英訳が
読める。

メディオロジー(日本語)
http://www.asahi-net.or.jp/~di4m-smzk
ドブレ著作集の訳者である嶋崎さんによる、日本語で読めるメディオロジーの総合サイト。

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ここまで原さんのSIC紹介でした。
原さん、貴重なご紹介、ありがとうございました。



●新椋鳥通信
 今をさかのぼること百年あまりの明治の昔、森鴎外は、外国の文学シーンを伝える椋
鳥通信を発行していました。このコーナーでは森鴎外にならって、噂、ゴシップ(笑)
を含めて、外国の哲学シーンをウォッチします。

○ルノーの政治哲学史シリーズの発刊(新椋鳥通信:第一号)
 アラン・ルノーの政治哲学史シリーズが10月にまとめて発刊されたようですね。これ
はフェリーとの共著でよく似た『政治哲学』とは違う新しいシリーズです。
Histoire de la philosophie politique, Calmann-Levi, 5 tomes
 第一巻 古代人の自由
 第二巻 近代の誕生
 第三巻 啓蒙とロマン主義
 第四巻 近代批判
 第五巻 現代の政治哲学

 このシリーズは、政治哲学のテクストのアンソロジーではなく、Pierre-Henri
Tavoillot, Patrick Savidanの協力のもとに、個々の政治哲学についてのエッセーを集
めたものですが、リベラリストのルノーが強力な指導力を発揮して、ルノー色の強いも
のとなっています。

 ルノーには『一九六八年の思想』などの著作があるので、ご存じの方が多いと思いま
すが、ルノーの基本的な考え方は、一九六八年五月以来さかんになったフランスの構造
主義とポスト構造主義的な思考方法を強く批判しながら、主体の哲学の復権を求めるも
のです。そのためフーコー、ドゥルーズ、デリダといった思想家は、ニーチェとハイデ
ガーの系統の実存主義的で反個人的な思想家とみなされます。

 このポスト構造主義的な思考は、主体とヒューマニズムという哲学的な思考方法の
「死」を宣告するものですが、ルノーは「いやいや、主体もヒューマニズムも死んでい
ないぜ」(笑)と主張するわけです。この主体の哲学に依拠したルノーは、批判的な合理
主義と、民主主義的で開かれた議論に基づくコンセンサスを方法論として採用します。

 ルノーは政治哲学を大きくわけて二つまたは三つの時期にわけます。第一の時期は、
アリストテレスにおける政治哲学の誕生からルソーにいたる時期で、政治哲学とは主権
を行使するのはだれかという問題を考察するものだということになります。これに明確
な回答を出したのがルソーで、ルソーはこの問題を一般意志と人民の主権という概念で
解決したというのが、ルノーの考え方です。

 第二の時期はルソーから一九五〇年代までの時代で、この時期には社会と国家の関係
が政治哲学の主題となるとルノーは考えます。これには政治哲学の分野では、三つの解
き方が提案されました。国家的な社会主義では、社会は国家の中に吸収され、アナーキ
ズムでは国家を社会の中に解体し、リベラリズムでは国家と社会が相互に制限し合うと
考えます。

 この二つの時期の分け方はそれなりに根拠のあるものだと思います。市民社会が確立
するまでは、だれが統治するかが鍵となって政治思想が展開されました。市民社会の原
理によってこの問題に結論が出てからは、共同体としての社会とその政治的な組織とし
ての国家の関係が軸となって、政治哲学が展開されるとみるのは、政治哲学のスタンス
としては、まず妥当なところでしょう。

 ただ、その後の展開についてはルノーは、アナーキズムは時代遅れになり、国家的な
社会主義の伝統は崩壊したので、いまはリベラリズムの勝利の時代と考えているようで
す。ルノーはロールズの『正義論』で第三の時代が開けたかどうかには曖昧な姿勢を示
していますが、歴史をこうしたリベラリズムの「進歩」の歴史と考えているのはたしか
なようです。

 ルノーの思想には、こうした素朴で楽天的な図式論が含まれていて、ときどき辟易す
ることがあります(笑)。この好みは『政治哲学の歴史』のシリーズの編集方針にも現れ
ているようで、ルノーはこのシリーズを古代と近代の政治哲学の対立と近代の勝利の図
式に合わせて作り上げているようです。

 そのために主体性という道を通らずに権利について考えようとしたスピノザ、民主主
義的でないニーチェ、反ヒューマニズム的なフーコーとドゥルーズに対して、厳しい批
判が向けられます。またあっさりと省略されてしまった思想家もいます。たとえば一八
世紀の唯物論(ホルバッハなど)、ユートピア論者(フーリエなど)、アナーキストとマ
ルキストの思想家などです。現代のフランス思想の流れでは、マルクスの影響の強いカ
ストリアディス、アルチュセールの影響の強いジャック・ランシエール、科学哲学系と
いうか、とても分類しにくいアラン・バディウなどがまったく無視されているとか。

 ただしこれほど明確な視点をもってやれば、いっそいさぎよくて、だれも標準的なテ
クストとは誤解しないという利点があるかもしれません(笑)。もっともインタビューを
したエリボンは手厳しく、「歴史なのか、それともパンフレットなのか」という疑問を表
明しています。

注:この通信は、次の記事を参考にしています。
○Des Anciens aux Modernes, aller simple, Le monde, 29 octobre, 1999
○Les resources du liberalisme politique, Le monde, 29 octobre, 1999(ルノーと
のインタビュー)
○Un entretien avec Alain Renaut, Nouvel Observateur, 9 decembre, 1999 (ルノー
とのインタビュー)


★近刊の哲学関連書
このコーナーでは、哲学に関連した書物の新刊をご案内します。
これらの書物は刊行されたばかりで、ぼくはまだ読んでいません。読んでみたいなと気
持ちが動いた書物をピックアップしてあります。あまり関係ないと思われるかもしれな
いものも紛れ込んでいますので、ご用心(笑)。あと、内容については図書館流通センタ
ーのデータと解説などに依拠しています。

●思想史
○ハイデガー哲学とナチズム
トム・ロックモア著; 北海道大学図書刊行会;6800円
ハイデガーの哲学の理論とナチズムへのコミットは重要な結びつきがあることを示す
「ハイデガー・ナチズムへの哲学的批判」だそうです。

○ニーチェ思想の根柢
内藤可夫著; 晃洋書房; 3300円
ニーチェの思想を「未来の哲学」という視点から分析する書物らしいです。

○開かれた宇宙 非決定論の擁護
カール R.ポパー著; 岩波書店; 2800円
ポパーは最近また人気が戻ってきたのでしょうか。

○食の思想 安藤昌益
小林博行著; 以文社; 2600円
「食は人物なり。分けて人は米穀を食して人となれば、人はすなわち米穀なり」という
安藤昌益の言葉から、昌益の儒教や仏教批判を分析する書物です。

○Walter Benjamin and the aesthetics of power
(Lutz Koepnick)
Lincoln, NE :University of Nebraska, 1999.
ISBN: 0803227442 (alk. paper) LCCN: 99012013
LC: PT2603.E455 Z6994 1999 Dewey: 838/.91209 21
Price: $ 50.00
ベンヤミンの美学と政治哲学の考察。ファシズムと芸術などのテーマを考えます。

○THE COLLECTED WORKS OF JEREMY BENTHAM: POLITICAL TACTICS
(edited by Pease-Watkin, Catherine)
Oxford : Clarendon Press, 1999
ISBN: 0198207727 (Cloth) : 86.50
LC: D295 Dewey: 192
Price: $ 90.00
ベンサムの政治過程の分析論のアンソロジー

○Mill's moral, political, and legal philosophy
(edited by C.L. Ten)
Brookfield, Vt. : Ashgate, c1999.
ISBN: 1840144327 (hc.) LCCN: 99028314
LC: B1607 .M55 1999 Dewey: 192 21
Price: $ 166.95
ミルの政治哲学、道徳哲学、法哲学を分析した論集のようですね。

○Understanding scholastic thought with Foucault
(Philipp W. Rosemann)
New York : St. Martin's Press, 1999.
ISBN: 0312217137 LCCN: 99023062
LC: B721 .R75 1999 Dewey: 189/.4 21
Price: $ 49.95
フーコーを使って中世哲学を考察しようという(笑)興味深い書物。

○The philosophy of Socrates
(Thomas C. Brickhouse, Nicholas D. Smith)
Boulder, Colo. : Westview Press, 2000.
ISBN: 0813320852 (pbk. : alk. paper) LCCN: 99036572
LC: B317 .P68 1999 Dewey: 183/.2 21
Price: $ 22.00
ソクラテスの哲学という永遠の難題(笑)を取り上げた書物。

○The young Leibniz and the philosophy (1646-76)
(edited by Stuart Brown)
Dordrecht ; Boston, Mass. : Kluwer Academic, 1999.
ISBN: 0792359976 (alk. paper) LCCN: 99047913
LC: B2598 .Y68 1999 Dewey: 193 21
Price: $ 138.00

●各論
□芸術哲学
○音楽の謀略 音楽行動学入門
福井一著; 悠飛社; 2000円
人間にはなぜ音楽があるのかという問いを立てた音楽行動学の入門書。タイトルがユニ
ーク(笑)

○A theory of art
(Karol Berger)
New York : Oxford University Press, 1999.
ISBN: 0195128605 LCCN: 98047060
LC: BH39 .B393 1999 Dewey: 700/.1 21
Price: $ 35.00

□宗教哲学
○Religion after religion : Gershom Scholem, Mircea Eliade, and Henry Corbin at
Eranos
(Steven M. Wasserstrom)
Princeton, N.J. : Princeton University Press, 1999.
ISBN: 0691005400 (pb : alk. paper) LCCN: 99024174
LC: BL51 .W225 1999 Dewey: 200/.7/2 21
Price: $ 19.95

□政治哲学
○自由の法 米国憲法の道徳的解釈
ロナルド・ドゥオーキン著; 木鐸社; 6000円
ドゥオーキンが人工妊娠中絶、安楽死、ポルノ規制などのアメリカ社会の問題を分析し
ながら、自由と法についての思索を展開します。具体的な場で考えるのは、いいことで
すね。

○原理主義
臼杵陽著; 岩波書店; 1200円
いまの政治的な焦点の一つである原理主義を分析した書。イスラムとユダヤの原理主義
を考察します。

○啓蒙の民主制理論 カントとのつながりで
インゲボルク・マウス著; 法政大学出版局; 4500円
「カール・シュミットの法思想」の著書があり、フランクフルト大学の教授であるマウ
スさんが、カントの政治哲学を通じて現代の民主主義を考察します。

○Voices from S-21 : terror and history in Pol Pot's secret prison
David Chandler. Berkeley : University of California Press, c1999.
ISBN: 0520220056 (alk. paper) LCCN: 99013924
LC: HV8599.C16 C48 1999 Dewey: 303.6/09596 21
Price: $ 48.00
カンボジアのジエノサイドの分析です。

□法哲学
○法哲学批判
長尾竜一著; 信山社出版 / 大学図書; 3900円
長尾さんの30年来の法哲学批判の集大成。

□ジェンダー論
○男たちの妄想 1 女・流れ・身体・歴史
クラウス・テーヴェライト著; 法政大学出版局; 8500円
著書案内によると、西洋の歴史を「男たちが自らの性的欲望と女性の性愛とを抑圧する
ことによって、連綿と築きあげてきた男権的・家父長的な歴史」と位置付けるフェミニ
ズム論。大著で、2まで続きます。

○ヒジュラ 男でも女でもなく
セレナ・ナンダ著; 青土社; 2800円
ユニークなジェンダー論。インドで売春婦でありしかも宗教儀礼者でもあという両性具
有のアウトカースト=ヒジュラの証言から、比較人類学・フェミニズム理論を駆使して
「第三のジェンダーの可能性」を探るそうです。面白そう。著者はニューヨーク市立大
学人類学教授でインド都市部に暮らす女性の社会生活を研究している方とか。

□教育哲学
○教育的存在論の探究 教育哲学叙説
斎藤昭著; 世界思想社; 5500円
「ブーバー教育思想の研究」の著書がある斎藤さんが、教育と人格、教育と時間、教育
と空間、教育と他者などのテーマを取り上げながら、教育を存在論的に探究する書物の
ようですね。

□言語哲学とコミュニケーション論
○グーテンベルク銀河系の終焉 新しいコミュニケーションのすがた
ノルベルト・ボルツ著; 法政大学出版局; 3300円
エッセン大学コミュニケーション理論講座教授で「意味に餓える社会」や「仮象小史」
などの著書のあるボルツさんが、コンピュータによって、書籍の時代が終わりつつある
ことを説いているそうです。ルーマンやハーバーマスらの理論を検討しながら「新たな
メディア論の見取図を提示」するのだそうな。今回の原さんのエッセーとも関連しそう
ですね。

○Philosophy of language : a contemporary introduction
(William G. Lycan)
New York : Routledge, 2000.
ISBN: 0415171156 (hb.) LCCN: 99029547
LC: P106 .L886 2000 Dewey: 401 21
Price: $ 65.00

□その他
○ナチズムとドイツ自動車工業
西牟田祐二著; 有斐閣; 4600円
「フォルクスワーゲン」と「アウトバーン」を中心に、ドイツ自動車工業を考察しなが
ら、ナチズムの体制と経済システムを考察します。哲学とはあまり関係ないのですが(笑)

○再生産の歴史人類学 1300〜1840年英国の恋愛・結婚・家族戦略
A.マクファーレン著; 勁草書房; 7200円
ケンブリッジ大学歴史人類学教授で、「イギリス個人主義の起源」などの著書のあるマク
ファーレンさんが、生殖という「種の再生産」を規制するマルサス主義的人口動態を歴
史人類学の手法で解剖した書物とのこと。

○穢れと規範 賤民差別の歴史的文脈
小谷汪之著; 明石書店; 2200円
著者は東京都立大学人文学部教授で、インドの文化人類学を専攻しておられる方のよう
ですね。「不可触民とカースト制度の歴史」や「ラーム神話と牝牛」などの著書があるよ
うです。賤民差別の歴史とそれを支える社会意識をインドの例から考える書物。

○Freud and the institution of psychoanalytic knowledge
(Sarah Winter)
Stanford, Calif. : Stanford University Press, 1999.
ISBN: 0804733066 (pbk. : alk. paper) LCCN: 99039692
LC: BF173 .W5485 1999 Dewey: 150.19/52 21
Price: $ 19.95

○ Schutzian social science
(edited by Lester Embree)
Boston, MA : Kluwer Academic Publishers, 1999.
ISBN: 0792360036 (alk. paper) LCCN: 99048276
LC: H61.15 .S46 1999 Dewey: 300/.1 21
Price: $ 169.00

★哲学関連雑誌目次データ
●思想,1999-12, no.906
特集=ゲーテ 自然の現象学=
○思想の言葉
(志村ふくみ)
P.2
○現象か法則か
――「自然の表情学」としてのゲーテ色彩論
(高橋義人)
P.5
○ゲーテ色彩論はどのような科学か
(河本英夫)
P.26
○自然には核もなければ殼もない
――ゲーテの自然観察の方法論――
(G.ベーメ)
P.43
対談世紀末の現代にゲーテを読む
(柴田 翔・高橋義人)
P.54
○ゲーテと西田幾多郎
(芦津丈夫)
P.79
○カッシーラーとディルタイ
――ゲーテの根本現象をめぐって――
( E. W. オルト)
P.96
○ゲーテ『イタリア紀行』再読
(中村雄二郎)
P.111
○ 絵画の導きとしてのエネルギー
――クレーとゲーテ・再考――
(前田富士男)
P.123
○ 近代造形思考とゲーテ
――「くもり」と「残像現象」の観察から――
(向井周太郎)
P.146
○生命科学のいまに改めてゲーテをひもとく
(岡田節人)
P.156
書評J. W. ゲーテ『色彩論』完訳版
P.172


●Philosophy & social criticism, 1999, v.25-6
○Effective history and the end of art: from Nietzsche to Danto.
(Scheibler, Ingrid)
P.1
○Freud, Foucault and `the dialogue with unreason'.
(Whitbook, Joel)
P.29
○ On young Lukacs on Kierkegaard: hermeneutic utopianism and the problem of
alienation.
(Price, Zachary)
P.67
○The Third: Levinas' theoretical move from an-archical ethics to the realm of
justice and politics.
(Simmons, William Paul)
P.83
○Review Essay: Adorno and the experience of metaphysics.--Under consideration:
Theodor W. Adorno's Metaphysik Begriff und Probleme.
(Finke, Stale R.S.)
P.105

●Synthese, 1999, v.118-2
○Davidson and Kim on Psychophysical Laws.
(Latham, Noa)
P.121
○Rethinking Burge's Thought Experiment.
(Georgalis, Nicholas)
P.145
○The Psychology and Epistemology of Self-Knowledge.
(Goldberg, Sanford C.)
P.165
○Believing Conjunctions.
(Evnine, Simon J.)
P.201
○Approximation, Idealization, and Laws of Nature.
(Liu, Chang)
P.229
○Confirming Mathematical Theories: an Ontologically Agnostic Stance.
(Peressini, Anthony)
P.257
○Wittgenstein on Irrationals and Algorithmic Decidability.
(Rodych, Victor)
P.279

●Philosophical studies, October 1999, v.96-1
○Confirmation Theory and Indispensability.
(Colyvan, Mark)
P.1
○A Theory of Normal and Ideal Conditions.
(Pettit, Philip)
P.21
○Conspiracy Theories of Consciousness.
(Jarrett, Greg)
P.45
○You Can't Lose What You Ain't Never Had: A Reply to Marquis on Abortion.
(Sinnott-Srmstrong, Walter)
P.59
○Referential Attribution.
(Berg, Jonathan)
P.73
○Truth in the Realm of Thoughts.
(Hill, Christopher S.)
P.87

●Mind, October 1999, v.108, n.432
○Metaphysics and the Morality of Abortion.
(Conee, Earl)
P.619
○How to Set a Surprise Exam.
(Hall, Ned)
P.647
○Phenomenal Consciousness: The Explanatory Gap as a Cognitive Illusion.
(Tye, Michael)
P.705
○On Super- and Subvaluationism: A Classicist's Reply to Hyde.
(Akiba, Ken)
P.727
○Pleading Classicism.
(Hyde, Dominic)
P.733
○Completing Sorensen's Menu: A Non-Modal Yabloesque Curry.
(Beall, J.C.)
P.737
○Using, Mentioning and Quoting: A Reply to Saka.
(Cappelen, Herman; Lepore, Ernie)
P.741
○Quotation: A Reply to Cappelen and Lepore.
(Saka, Paul)
P.751
○Microphysical Supervenience and Consciousness.
(Noonan, Harold W.)
P.755

●The journal of speculative philosophy, 1999, v.13-2
○Reading Rorty's "Ironist Philosophers" as Post-Ironists.
(Depp, Dane)
P.79
○"Give Me A Break!" Emerson on Fruit and Flowers.
(Shapiro, Gary)
P.98
○The God of Abraham, Isaac, and (William) James.
(Paulsen, David)
P.114

●Political theory, October 1999, v.27-5
○Cultural Diversity and the Conversation of Justice: Reading Cavell on Political
Voice and the Expression of Consent.
(Owen, David)
P.579
○Religious Pluralism: Secularism or Priority for Democracy?
(Bader, Veit)
P.597
○Habermas and Religious Inclusion: Lessons from Kant's Moral Theology.
(Shaw, Brian J.)
P.634
○Establishing Toleration.
(Dees, Richard H.)
P.667
○The Use of Augustine, after 1989.--Elshtain, Augustine and the Limits of the
Political; Arendt, Love and Saint Augustine; Stock, Augustine the Reader.
(Mitchell, Joshua)
P.694
○The Holding Pattern.-- Euben, Wallach, and Ober, eds., Athenian Political Thought
and the Reconstruction of American Democracy; Trend, ed., Radical Democracy;Lummis,
Radical Democracy; Mendel-Reyes, Reclaiming Democracy: The Sixties in Politics and
Memory; Christiano, The Rule of the Many; Fundamental Issues in Democratic Theory.
P. 706

●Philosophical studies, September 1999, v.95-3
○Tibbles the Cat - Reply to Burke.
(Noonan, Harold W.)
P.215
○How Self-Knowledge Can't be Naturalized (Some Remarks on a Proposal by Dretske).
(Kemmerling, Andreas)
P.311
○Personal Identity and Dead People.
(Mackie, David)
P.219
○Objective Probability as a Guide to the World.
(Stevens, M.)
P.243
○Platonism: Reliability and Judgement-Dependence.
(Divers, John; Miller, Alexander)
P.277

●Continental philosophy review, 1999, v.32-2
○Rawls's political postmodernism.
(Beggs, Donald)
P.123
○On the hermeneutic fore-structure of scientific research.
(Ginev, Dimitri)
P.143
○The sound of the life-world.
(Kerszberg, Pierre)
P.169
○The self and others: Imitation in infants and Sartre's analysis of the look.
(Wider, Kathleen)
P.195

●Phronesis, 1999, v.44-2
○Heraclitus on Religion.
(Adomenas, Mantas)
P.87
○Aristotle's Two Modal Theses Again.
(Makin, Stephen)
P.114
○King-bees and Mother-wasps: a Note on Ideology and Gender in Aristotle's
Entomology.
(Mayhew, Robert)
P.127
○Aetiana.
(Frede, Michael)
P.135
○Aristotle and Hellenistic Philosophy.
(Algra, Keimpe)
P.150


★お便りコーナー
今回は庵さんと小原さんからメールをいただきました。
まず庵さんのメールから
> はじめまして。庵と申します。30歳男性です。
> ポリゴロス通信、毎回楽しく拝読させていただいています。
>
>  ごく最近まで哲学とは無縁でしたが、最近自身の思考を整理確立して
> いく事が重要だと思うようになり、自己流ではありますが勉強をはじめ
> た者です。
>  質問をしてもよろしいでしょうか? 第3号でよく解らない部分があ
> りましたので。
>
> >そして人間の認識がこのような地平的な構造をそなえることができる
> >のは、人間が身体をもつ存在であり(フッサールはこの身体構造をキ
> ネステーゼという概念で考察する)、他者とエロス的な関係を結ぶ存在
> だからだと考えることができる。
>
>  なぜ身体性及びエロス的関係が認識における地平的構造へ繋がるの
> か? この部分です。
>  とりあえず解らないなりに私なりの文章の認識と推測を書き出してみ
> ます。
> ------
> ●人間の認識における地平的構造
>
>  A:目で入ってきたことをそのまま受け止める。
>  B:Aの情報に対して、目に入らない部分を補い、またその各部に言
>    語的なラベルを貼り付ける。ラベルにはイメージが自動的に付加
>    される。(Bの処理は直感的に行われる)
>
>  *人間の意識が見るものは主にBのほう。機械は(少なくとも現在の
>   技術では)Aのみしか認知できないので判断に時間が必要になる。
>
> ●身体性及びエロス的関係による幼児期からの経験的学習
>
>  1)親との関係のなかで、まず親という「物体」に名前があることを覚
>    える。
>  2)親の名前にそのイメージを付加する。
>  3)1、2の過程をそれ以外のものへも拡大する。
>  4)3を繰り返すうちに脳内にそれを直感的に行うための神経回路が
>    整備される。
> ------
>  だいたいこんな所です。これで正しいでしょうか?
>  私はまだ気分的に(←苦笑)納得していませんが。
>  しかし、もしこういう形で人の認識のフレームが形成されるのであれ
> ば、幼児期に放っておかれた子供は重大なハンデを背負うことになりま
> すね…。
>

たしかにここはいろいろな問題があって難しいところですね。でもいろ
いろと考えていただいて、うれしいです。
人間が認識するということは、カメラに事物が写るというのとは違いますね。
そのどこが違うかというのが、重要な問題だと思います。人間が認識する場合には、
カメラで写す場合とは違って、すでにそこで世界が分節されている必要が
あるのだと思います。樹木が樹木として認識されることには、大変な前提が
必要ですよね。カメラはすべてのものを像として平面に描き出しますが、
人間はすでに遠近法でみてしまう。そしてそれが可能となるためには幼児から
の成長の過程が蓄積される必要があるのでは。

この問題については、いろいろと考える道筋があると思いますが、
庵さんのように心理学の方向から考える場合には、次の書物が参考になるかもしれませ
ん。
○フロイト『自我論集』ちくま学芸文庫
○フロイト『エロス論集』ちくま学芸文庫
○『メルロ=ポンティ・コレクション』ちくま学芸文庫
○メルロ=ポンティ『眼の精神』(とくに「幼児の対人関係」)みすず書房
最初の三冊はわたしの訳書なので、宣伝めいて心苦しいのですが(笑)。
それと幼児期と母親の問題は、心理学の分野で多大な蓄積がありますね。
精神分析の分野のメラニー・クラインの両母論(笑)なども参考になるかもしれません。

あとコンピュータのフレーム問題については、次の書物がお勧めです。
○コンピュータには何ができないか : 哲学的人工知能批判
ヒューバート L. ドレイファス著 ; 黒崎政男, 村若修訳 産業図書, 1992.4
○哲学者はアンドロイドの夢を見たか : 人工知能の哲学
黒崎政男 哲学書房, 1987.10

ところでこのフレーム問題は、社会システム論風に、複雑性の縮減という考え方であっ
さり片付いてしまうのですが(笑)、そういうふうに片付けずにもう少し考えてみたいと
思っています。


次は小原さんのメールをご紹介します。
>
>  またまたお便りコーナーで丁寧に取り上げていただき、ありがとうございました。
>  今回のエッセーを読ませて頂いた感想をすこし書きます。
> 最初の方で機会翻訳に触れていましたが、私はいま普通の仮名漢字混じり文を点字に
> 変換するためのツールを考えています。
> 大ざっぱに言えば、普通の文章を声を出して読み上げるように、表音文字に(マス明
> けや表記法も含めて)置き換えていくのですが、これが以外にたいへんなのです。
>
> 「水田」を「すいでん」と読むか「みずた」と読むかは、水田の前後にどんな文字が
> 来るかで、かなり読み分けられますが、「行った」を「いった」と読むか「おこなった
> 」と読むかになると、そう簡単にはいきません。
>人間は「行った」を文全体の具体的な内容を把握しながら、そんなに苦労せずに読み分
> けているようです。とても私の力の及ぶところではありません。
>
> エッセーの最後の方で、志向性について書かれておられましたが、見えない場合の志
> 向性について考えさせられました。
> 私はほとんど見た経験がないので、パースペクティヴとか地平といったものをリアル
> には分かっていないと思います。
>取りあえずは、どうでも見る、考えるといった感じで、いわば志向性が弱いのでしょう。
>たまには、見える人の枠組みに捕らわれた自然な見方にはない発見めいたこともありま
>すが、志向性のなさが、見える・見えない人相互の違和感につながることもよくあると
> 思います。
>もちろん、そういう違和感も新しい世界を知る一つの手懸りですので、私はそれも歓
> 迎です。
>
>  ごく個人的な感想になってしまいました。
> 次のエッセーを楽しみにしています。

うーん。ぼくたちは、認識するということを、つい見ることのメタファーでいってしま
うのですが、そしてそれは西洋の哲学に特徴的なやり方なのですが、小原さんのメール
を読んでいると、それがひとつのモデルにすぎないことを痛感させられますねぇ。みる
ことによらない認識モデルも可能なはずなのに、あまり考えられていないですね。

西洋の哲学は、ギリシアからはみることのモデルにしたがった光の形而上学を受け継ぎ
ましたが、同時にユダヤ・キリスト教からは聞くことのモデルにしたがった声の形而上
学を受け継いでいると思います。これにはついては西洋の哲学の伝統のなかで正面から
の批判があるのですが、こうした形而上学批判の道筋からは、小原さんの示されたよう
な問題はなかなか解けないですね。漢字の読み方の問題を含めて、いろいろと考えてし
まいます。
こんごともよろしくお願いしますね。


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ポリロゴス通信第四号(1999/12/11) [550部]
発行:ポリロゴス事務局: polylogos@geocities.co.jp
バックナンバー: http://nakayama.org/polylogos/newsletter/
配信: まぐまぐ(http://www.mag2.com/ )
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