コレージュ・ド・フランスでのフーコー

(中山 元)

 フーコーのコレージュ・ド・フランスでの講義については、現在文書化が進められているようですが、1年に1年度分というペースであり、進捗状況もそれほど明確ではないので、しばらくの間は、まだその全体を把握するのが困難なようです。ここでは、年度別に、フーコーのコレージュ・ド・フランスの講義について利用できる資料をまとめました。

★教授就任講演(1970年12月2日)
☆L'ordre du discours, Paris, Gallimard, 1971
 邦訳『言語表現の秩序』中村 雄二郎訳、河出書房新社、一九八一年

★知への意志(1970-71)
 アリストテレスとニーチェにおける知への意志の理論を分析しながら、真理の問題和分析。後半には、ギリシアの貨幣制度の影響などについても考察。
 セミナーでは、一九世紀のフランスの刑罰システムについての一般的な分析を行う。
☆La volonte du savoir, Resume des cours, Julliard, 1989, pp.9-16, Dits et Ecrits, tome.2,pp.240-244

★刑罰理論と制度(1971-72)
 この年は、前年のセミナーを引き継ぐ形で、一九世紀のフランスの刑罰システムと理論を分析しながら、古代、中世、近代において裁判の原理を考察。
 セミナーでは、刑罰システム一般についての考察に引き続いて、ピエール・リヴィエール事件の分析が始まる。さらにに精神分析と司法制度の関係についての考察が深められる。☆Theories et institutions penales(1971-72), Resume des cours, Julliard, 1989, pp.19-25, Dits et Ecrits, tome.2,pp.386-393

★懲罰的な社会(1972-73)
 この年は、古典主義の社会における懲罰システムについて研究しながら、監獄システムの欠陥を分析。これは『監視と処罰』に結実。講義録もかなり充実している。セミナーでは、ピエール・リヴィエール事件の分析が本格的に進められる。
☆La societe punitive(1972-73),Resume des cours, Julliard, 1989, pp.29-51, Dits et Ecrits, tome.2.pp.456-470

★精神医学の権力(1973-74)
 ピエール・リヴィエール事件の分析を踏まえて、精神医学と司法システムの結び付きについての考察が深められる。フーコーの反精神医学運動への支持はこの研究に基づくものである。セミナーでは、病院の建築と制度の歴史と、1820年以降の精神医学と司法システムの関係について研究。
☆La pouvoir psychiatric(1973-74),Resume des cours, Julliard, 1989, pp.55-69, Dits et Ecrits, tome.2,pp.675-686
☆La maison des fous, in Les Criminels de paix, PUF, 1980:145-160。講義録の加筆修正版。

★異常者たち(1974-75)
 社会から排除され、あるいは矯正される「異常者たち」を分析。『知への意志』につながる研究である。セミナーも同じテーマで、特に1820年以降にヨーロッパで頻発した「理由なき」殺人者たちと司法の問題を考察。
☆Les anormaux(1974-75),Resume des cours, Julliard, 1989, pp.73-81, Dits et Ecrits, tome.2,pp.822-828

★「社会を守れ」(1975-76)
 パノプティコンの監視社会から、自己を有機体として意識する社会に移行した近・現代の社会の排除の原理を考察。さらに戦争論の分析が始まる。フーコーの一つの転機。セミナーは、「危険な個人」のテーマを分析。
☆Il faut defendre la societe (1975-76), Gallimard, 1997 この年の講義の完全な記録がついにGallimardから出版されました

☆Il faut defendre la societe(1975-76),Resume des cours, Julliard, 1989, pp.85-94, Dits et Ecrits, tome.3,pp.124-130
☆Difendere la societa:Della guerra della razze al razzisme de stato, Ponte alle Grazie,1990。この年の講義の完全な記録。イタリア語。
☆Faire vivre et liasser mourir: la naissance du racisme, Les Temps moderne, n.535, fev., pp.37-61。3/17の最終講義の記録。
☆Corso del 7 gennaio 1976, Corso del 14 gennaio 1976, Microfisica del Potere, 1977, pp.163-177。1/9日と1/14日の最初の二日の講義の記録。英語の翻訳があり、フーコー・センターにはフランス語の原稿(翻訳?)がある。
☆Vom Licht des Krieges zur Geburt des Geshichte, Merve Verlag。講義のドイツ語翻訳版。1/21,1/28日の講義の記録。
☆講義録テープ、9日分(フーコー・センター所蔵)1976/1/7-3/17, C61(1)-(9)

★休講(1976-77)

★社会保障、領土、人口(1977-78)
 統治性の概念に基づく新たな考察の開始を告げる年である。司牧者権力、福祉社会、生−社会など、重要なテーマが次々に考察される。セミナーでは、ポリツァイの理論と福祉社会について研究。
☆Il faut defendre la societe(1977-78),Resume des cours, Julliard, 1989, pp.99-106, Dits et Ecrits, tome.3,pp.719-723
☆Vorlesung zur Analyse der Macht-Mechanismen: Das Denken des Staates, in Michel Foucault. Der Staub und die Wolke, Verlag Impuls, pp.1-44。講義の要約のドイツ語翻訳版
☆La gouvernementalite, Aut Aut, 167-168, pp.12-29。英語版はFoucault Effectに収録。フランス語版はActes 54(1986 夏号)に収録
☆La gouvernementalite, Le magazine litteraire, n.269, sept., pp.97-103。2/1の講義の記録
☆La gouvernementalite, Seuil,開講の日の講義のセット・テープ版。
☆講義録テープ、11日分(フーコー・センター所蔵)1978/1/18-4/5, C64(2)-(12)

★バイオ・ポリティックスの誕生(1978-79)
 ポリツァイの理論を本格的に考察。衛生、出生率、寿命、人種など、住民=人口の管理が重要なテーマとなった近代のバイオ・ポリティックスの問題点を集中的に考察。セミナーでは、一九世紀末のバイオ・ポリティックスに関連した司法の問題を研究。
☆Naisssance de la biopolitique(1978-79),Resume des cours, Julliard, 1989, pp.109-119, Dits et Ecrits, tome.3,pp.818-825
☆講義録テープ、12日分(フーコー・センター所蔵)1979/1/10-4/5, C67(1)-(12)
☆ Naisssance de la biopolitique , Seuil,開講の日の講義のセット・テープ版。

★生者の統治(1979-80)
 告白のテーマを中心に、子供、魂、家庭、国家の統治の問題を検討。罪の告白において自己の真理を語ることというパレーシアのテーマに重点が移行。自己の統治の問題系が見え始める。セミナーでは一九世紀の自由主義の問題を考察。
☆Du gouvernement des vivants(1979-80),Resume des cours, Julliard, 1989, pp.123-129, Dits et Ecrits, tome.4, pp.125-129
☆講義録テープ、12日分(フーコー・センター所蔵)1980/1/9-3/26, C62(1)-(12)


★主観性と真理(1980-81)
真理の告白からいかにして西洋の主観性が誕生するかというテーマを、自己の配慮という観点から検討する。『性の歴史』の第二巻、第三巻の問題が集中的に取り上げられる。
☆Subjectivite et verite(1980-81),Resume des cours, Julliard, 1989, pp.133-141, Dits et Ecrits, tome.4, pp.218
☆講義録テープ、7日分(フーコー・センター所蔵)1981/1/6-2/25, C63(1)-(7)


★主体の解釈学(1981-82)
 プラトンを中心に、ギリシア的な自己の解釈学を検討し、これがストア派においてどのように修正されていくかを検討。
☆L'hermeneutique du sujet(1981-82),Resume des cours, Julliard, 1989, pp.145-166, Dits et Ecrits, tome.4,pp.353-365
☆Michel Foucaults Hermeunetik des Subjekts, in Michel Foucault: Freiheit und Selbstsorge, Materialis Verlag, pp.32-60。講義の要約のドイツ語版。1/6,1/13,1/27,2/3,2/10,2/17,2/24,3/10の講義を収録。
☆Hermeuneutique du sujet, in Corcordia,n.12, pp.44-68。上記のFreiheit und Selbstsorgeの講義の要約をフランス語に翻訳したものである。
☆講義録テープ、8日分(フーコー・センター所蔵)1982/1/6-2/24, C65(1)-(8)

★自己の統治と他者の統治(1982-83)
 自己の統治がいかにして他者の統治と結びつくかを検討。実存の美学の観点が登場し、カントの啓蒙論を「時代を生きる」という視点から考察。
☆Un cours inedit, magazine litteraire, 207(1984/5),pp.35-39。1/5日の開講の日の講義録。英訳版はPolitics, Philosophy, Cultureに所収。邦訳「カントについての講義」はエピステーメーII-0号(1984)に所収。
☆講義録テープ、13日分(フーコー・センター所蔵)1983/1/5-3/9, C68(1)-(13)

★自己の統治と他者の統治:真理を言う勇気(1983-84)
 自己についての真理を語ることから、他者に真理を語る「パレーシア」へと問題が最終的に移行。フーコー最後のテーマである。
☆Das Wahrsprchen des Anderen, Materialis, pp.15-42。フーコーの最後の2日間の講義のドイツ語版。
☆講義録テープ、9日分(フーコー・センター所蔵)1984/2/8-3/28, C69(2)-(10)